焼肉『 真心 』
坪数 : 15.1坪(エントランス0.6坪 / 客室10.1坪 / 厨房3.1坪 / トイレ0.7坪)
工期 : 4.0ヶ月
ご依頼内容 : デザイン / 設計 / 施工 / 厨房設備 / ブランドディレクション / グラフィック / ロースター設備
工事前状況 : 焼き鳥店居抜き
所在地 : 大阪市中央区
概要 :
大阪市内で焼肉店を複数展開する有名店にて経験を積んでこられたお施主さん。
実はこちら、御母方の郷である徳島にて 叔父さんが牛舎を お母さんが精肉店をそれぞれ営まれる 言わば “牛ビジネスの申し子”。
兼ねてから いずれは大阪で焼肉店を…と、お母様を中心に出店に向けてバックアップを続けてこられたとの事。
10年という区切りで修行期間満了とし、いよいよ皆の夢を背負って独立開業… のお店づくりに抜擢頂きました。
数件の物件を案内/同行させて頂きました。
1オペが似合う10坪前後のコンパクトで低家賃の物件が本命かと思いきや、結局メトロの駅から徒歩3分 谷町筋沿い15坪のこちらの物件に。
超一等地とまでは言わないまでも、個人事業主が開業時に借りる様なトコロじゃない…
“良過ぎる…” とか “贅沢…” とかの類の意見をお伝えしましたが、ご一族としての決断はココ。
でもよく考えるとこのチームはある意味個人事業主では無い… チーム?そうか、チームなんや… なんて風に腑落ちしました。
元が焼き鳥店でインフラが十分な事、造作譲渡の費用が格安だった事、お住いから近い事。それ等のアドヴァンテージもあって、ココを拠点としたプロジェクトが動き出しました。
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会社も世帯数も多いこのエリアで開業する焼肉『真心』のターゲットとしては
・仕事終わりの会食
・近隣にお住まいのファミリーやカップル
・落ち着いて独り焼肉したい方
・接待 …etc
お店のコンセプトに掲げられた【A5A4のブランド牛(阿波牛)が中心でホスピタリティーも高めだけど そんなに構えないで使える親しみやすくてナウい焼肉店】
恵まれた背景を活かし、空堀近辺で焼肉やったらココ!って店にするには…
これらの情報を源泉に構築したインテリアデザインのコンセプトは、
和とインダストリアルのはっきりとしたギャップを創り、それらをスタイリングでもって魅せる…としました。
ファッションで言うとそれなりにデザインされた物同士を合わす ではなく 本物のフライトジャケットにコレクションブランドの無地スカートを合わす的な… 単品ではなくコーディネイトでもって主張する言わば上級者コーデ。
外食産業の絶対王者『焼肉』。多少は従来のリュクス感/ギラギラ感も醸し出したいし、シズル感も令和水準のユニバーサル感も欲しい。それ等を『真心』のコンセプトでフィルターを掛けた結果、難易度は高いけど上記でもって表現する事にしました。
和装の土台となる櫓(やぐら)組みや壁の木工造作は4or5.5mmのラワンベニヤの突き付け仕上げ。
柱と梁も集成材をラワンで覆い出隅の留め加工にて木口を隠蔽。節のない無垢の柱材に見せています。
『経年劣化を味わえる良質な空間づくり』と『費用を抑える』を両立させる為に職人さんには苦労して貰っています。
和装のあしらいは、すっきり見える様に各所のチリは浅めに。
客席の照明は梁に内蔵させ、極力照明器具の存在を消す事に留意しています。
同じ木工でも、テーブルの天板やベンチ・カウンター台などの家具類はベニヤ材の積層木口を活かした少しカジュアルな格好にして、全体が重くなり過ぎない様にしています。
カウンター席の椅子は前々から温めていた企画を採用。脚を含む全てをベニヤ材で構成した積層木口活かしの仕口仕上げ。面材のみで形成したことによる “微妙な違和感” が上手く出ている気がしています。
相対する金物造作は 天井にケーブルラック・壁にLGS・床にはメッキ鋼板 とこちらもテンコ盛り。
客導線を覆う格好でDLを併設したケーブルラックを設置。スケルトンにした事で確保出来た筈の天高のノイズになり得たH900の大梁。その存在を適度に去なす…という事を今回のコンセプトの中で上手く消化出来たんじゃないかと感じています。
外壁/間仕切り格子/厨房開口袖壁 はLGSスタッド。この空間で一番記憶に残る仕上げ材ではないかと。ここには 訪問者が他所で『〇〇の店やろ?』と形容したくなる様なアイコニックな何かを…という思いも込められています。
近未来的で重厚な雰囲気の床材は450角の溶融亜鉛メッキ鋼板。空間の印象付けという意味では恐らく一番の役割を担っているかと。歩行により自然に入る小さな擦りキズで少しずつ曇っていく経年劣化を楽しみます。
『一定のプライバシー』と『同じ空間を共有しているという一体感』の両方を担保したい。その店内のプライバシーコントロールには工業用ビニールカーテンを採用。
クリアオレンジと電球色の光源とが相乗して生まれるより暖色になった灯り。それが本来冷たい印象の鉄材達を照らし、独自の空気感が店内を包みます。『〇〇の店やろ?』はこっちかも^^;
エントランスの赤石は本来の『厄除け』という意味合いよりも『肉塊』をイメージしたオブジェとして。
徳島の阿波牛という事で同産地の赤石をかなり探しましたが見つからず、No.1産地である三重産をチョイス。
ファサードからも覗けるレジ前の盆栽は “withers” によるもの。枯れた盆栽を天然物のみで意匠再生して水やり不要なオブジェへ転換。その技術もさることながらその着想や行為に共感。今回のコンセプトとの共通性を感じ採用させて頂きました。
内部インテリアの書は神戸の書道家“Rie”さん。インテリアの主旨やプロジェクトリーダーであるお母さまのイメージを共有させて貰った上で主に “動き” “勢い” をテーマに描いて頂きました。
現場は昭和40年代築の物件。
解体を始めると この50年で上塗りする様な業態変更を何度も繰り返してきた痕跡が… この際だからハードリセットするつもりで挑むも、想定外に次から次へと現れる不要な設備。全て残置の居抜き状態だった事もありますが 頂いた工期のうち結局丸々1ヶ月が 解体/撤去に奪われ、なかなかドキドキでしたが何とか予定通りで収まりました^^;
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いつもデザインを考える際は『高級 ↔︎ 大衆』『伝統性(トラディショナル)↔︎ 時好性(トレンド)』を頭の中でXYグラフをイメージ。事業のコンセプトをお聞きしてそのどこにポジショニングさせるかを最初に決めます。
また『そのデザインによってお店のメッセージを正しく伝え、それをキャッチした人がアクセスし易いルックスにする』…という事も決めています。
今回で言うと『少し高級で少しトレンディー』というトコロを狙った上で、そのシチュエーションに遭った殆どの人に “ココを使ってみたい!” と思ってもらえるデザイン… を目指しました。
大阪市内の便利な場所に在るお店だけに、私含めお店づくりを担った人間は自ずと使わせて頂く事になるかと思います。
この 木の温かみと鉄の冷たさの大きな振り幅が特徴の焼肉店『真心』。この場がそれこそ幅の広い人達に長く愛され、徳島に多くの利を返せるお店に成る事を願います。
施工 :内山大樹(ハナケン)
照明 :西野照明デザイン事務所
電気空調:一粒万倍
塗装 :KCR
厨房 :タウンタウン
客席器具:シンポ
金物 :マーサーステンレス
移動家具:万年青家具製作所
装飾 :小西康太(segno)
暖簾 :花月堂
植栽 :withers
書 :Rie
撮影 :臼井淳一
20250324竣工