串揚げ・煮込み『 押上(オシアゲ) 』
坪数 : 5.9坪(客室2.8坪/厨房2.5坪/トイレ0.6坪)
工期 : 3.5ヶ月(貸主側雨漏り補修工事期間含む)
ご依頼内容 : デザイン / 設計 / 施工 / 厨房設備 / ブランドディレクション / グラフィック
工事前状況 : 現状復旧跡のセミスケルトン
所在地 : 大阪市城東区
概要 :
大学進学で愛知から京都に移られ 在学期間中に体現された関西の飲食店の温かさに “いつか自分も関西で店を持ちたい!”と心に決められたお施主さん。
卒業後はご出身地に戻り 有名飲食店で数年修行されたのちに開業資金確保の為に転職。ある程度目処がついた段階で在職しながら出張ベースで物件探索と内装業者選定… の際に接点を持たせて頂きました。
お話をお聞きして伝わってくる 夢の実現の為の行動力や計画性の高さと “人生一回っきり / 何事もやってみないと判らない / 自分が納得できる人生を” というコメントから垣間見える強いチャレンジ精神。だけど立ち居振る舞いは極めて謙虚でらっしゃる。
このバランスにヤラれ初めて、『僕に作らせてください!』って言わされちゃったお客さん。
2度目の大阪出張時に内覧された本物件を気に入られ 作図と見積りを急ぐも肝心の融資の目処がつかないまま不動産側の都合に譲歩し、先に物件契約。
それ程までにモノにしたい場所という事なんだけど、既に家賃が発生している状況下で思いのほか難航する資金調達。余儀無くされる着工遅延と工期の延滞。
長い時間を要しましたが、お施主さんはじめ皆の労が奇跡的に報われ無事完工を迎えることが出来ました。
この現場は大阪城東区の今福東。
お年寄りが多い街ながら 人口も世帯数も事業所数も増え続けている上向きな町。
国道1号線が府道8号(鶴見線)へと名を変える蒲生四丁目の交差点から西へ少し。
その鶴見線から1ブロック南下した角地にある鉄骨造の単独平屋。
元が餃子が売りのラーメン屋さんだっただけに 引き込まれているインフラも十分(グリーストラップだけ何故か無かったが)。
飲食店を開業する環境として絵に描いた様なロケーション。
先に物件を押さえたくなっちゃうのも十分理解出来る、そんな場所。
構想される業態は串揚げと煮込みを主とした居酒屋。
ただ坪数や区画の形からすると座席を設ける事が困難でカウンターのみのスタンディングにしか出来ない。でも愛知では立ち呑み文化がほぼ皆無との事で 当初悩まれていました。
追って大阪の飲食市場をリサーチ。そもそもその文化が定着している事や改めてトレンドに成っている事を認知され業態のシフトをご判断。
お施主さんのご要望とお人柄 そして街柄を考慮し デザインコンセプトを『昭和の和装な令和のスタンド』としてプランを進めました。
古臭い立ち呑み屋然としたイメージをベースに 一定の今っぽさは感じる…というトコロを狙いました。
なかなか無いであろうサイズ感のテントはフレームを残し既存を撤去。 出入口とテイクアウト部の必要な箇所だけ新規で張り直し。
外部のぼけたピンクがかった吹き付け塗装も既存。狙って出せる色じゃないし妙に雰囲気を感じたもので。
予算とは関係無く 既存活かしの箇所を意識的に確保し、歴代の入居者と古い街へのリスペクトも表したつもりです。
建具含む木工仕上げは全てラワン。
設置箇所に応じて合板と無垢とを使い分けています。
建具のガラスをモールガラスに。
ほぼパノラマな見え方になる店内のプライバシー確保という意味合いと、懐かしさやホッコリ感の演出とを兼ねています。
のちに展開予定のテイクアウト用に厨房直結の小窓を設置。
和装なデザインに折れ窓はいかがなものかとも思いましたが “動き” を足した方が良いという判断で上げ下げ窓ではなくこちらに。
カウンター天板はt30のラワン合板で木口部は2枚貼りで厚みを持たせています。
ここは今っぽさより既視感・安心感を優先しています。
店内外に見えてくる欄間は高さ関係を統一して この店舗のデザインと設計上の一つの基準としています。
ファサードの垂れ壁からトイレ開口まで繋がったこのラインが生み出すカクカク感が なんとなくの今っぽさを醸し出してくれていればなぁと思うトコロです。
モルタルで仕上げたカウンターの腰壁の足元には 目地ナシで並べたブロックの上に踏み板を設置した足掛けを。
これは来店者がなるべく楽に飲食できる様にカウンター側に体を預け易くする…という事、またそれによって自然とトイレ導線が確保される という二次効果を狙っています。
ほぼ木工と左官で仕上げた空間にデザインコンセプトの範疇内で何かエッセンスになるテクスチャを… という意味で客席奥入隅にウロコ調ガルバリウムを割り付けた壁を。
恐らくココは店内で一番衣服が擦れ易い箇所であろうという事も兼ねての選択です。
正面右のメインのサイン上部にはオリジナルのポーチライトを。
軒先に佇む門番としての地味で物言わぬ愚直さ… みたいなものを表してみました。
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多くのリスクを承知で他府県から転居しての開業。
“ 誰かの背中を押したい ”という意図のもと 創られたこの場の名は『押上』。
ここには 当時勇気をくれた 関西の飲食店のあの雰囲気をいつか提供する側になりたい そういう場にしたい という想いが込められています。
この場で後押しされた誰かが、また違う誰かの背中を押す…
そんなロケット鉛筆みたいな好循環がここから生まれれば素敵だなと思います。
施工 :内山大樹(ハナケン)
照明 :西野照明デザイン事務所
電気空調:一粒万倍
塗装 :KCR
厨房 :タウンタウン
金物 :マーサーステンレス
テント :大谷テント
提灯 :花月堂
装飾 :小西康太(segno)
撮影 :臼井淳一
20240831竣工